『クラインの壷』(岡嶋二人 著)を読みました。これは1989年に初版が刊行されたSFミステリー小説で、現在のVRやハプティック技術(触覚技術)の先にありそうな世界を描いています。
余談ですが、ハプティック技術のゲーム利用についてはプレーステーション5(PS5)のコントローラーで話題になっています。気軽に仮想世界へ入り込むこともできそうです。
参考:“PS5”は2020年末に発売。没入感を増す触覚技術搭載へ
ここではネタバレ込みで感想などをまとめます。
書籍紹介
現実も真実も崩れ去る最後で最恐の大傑作。200万円で、ゲームブックの原作を謎の企業「イプシロン・プロジェクト」に売却した上杉彰彦。その原作をもとにしたヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることに。美少女・梨紗と、ゲーマーとして仮想現実の世界に入り込む。岡嶋二人の最終作かつ超名作。そのIT環境の先見性だけでも、刊行年1989年という事実に驚愕するはず。映画『トータル・リコール』の前に描かれた、恐るべきヴァーチャルワールド!(講談社文庫)
講談社文庫/講談社BOOK倶楽部
全身の感覚全てを仮想現実に入れるゲーム。これのモニターとして極秘の研究所でクライン2(K2)をプレイしていく話になります。
内容
以下ネタバレ込みの感想など。
ざっくりネタバレ
要するに、仮想世界でのゲームに誘われてやっていたら、現実世界との区別がつかなくなってしまったという話。
話が現実世界と仮想世界を行き来しますが、現実世界は東京、仮想世界はアフリカの架空の国という風に思い込まされます。実際は、感覚を疑似感覚としてすべて仮想世界に持ってかれているため、「仮想世界➡︎現実世界」とモニターに思わせることもできます。
主人公は「仮想世界(アフリカ)➡︎現実世界(東京)」と思い込み、現実世界で研究所の悪事を暴きます。しかし、エレベーター内の得体の知れないガスによって”ゲームオーバー”になります。42章では「仮想世界(アフリカ)➡︎仮想世界'(東京)➡︎現実世界”(研究所@東京)」という風に貴美子が説明します。
どこからどこまでを現実世界と思うかは読者に委ねられます。
クラインの壷とは?
私はトポロジーに明るくないですが、簡単に説明しておきます。クラインの壷はメビウスの輪の3次元版みたいなもの。メビウスの輪なら知っている人も多いと思います。細長い短冊の端と端をくっつけるときに、一方を180度ねじってくっつけるとできます。メビウスの輪になっている紙の上を歩くのを想像するといつの間にか紙の下にきます。
「平面の上を歩いていたのにいつの間にか平面の下にきている」状態は、本人にとってはずっと2次元にいる状態だと思います。しかし、上が下になっているということはいつの間にか3次元的に裏面へ移動しているということを意味します。
クラインの壷でも、3次元空間にいたと思っていたのに、いつの間にか別の(裏側の)3次元空間にいるということを意味します。この3次元空間の表/裏を現実世界/仮想世界と見ることでストーリーのイメージが湧きやすくなると思います。
![KleinBottle-01.png](https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/46/KleinBottle-01.png)
Public domain, Wikipedia
44章では壷の内側を仮想世界、壷の外側を現実世界と書いています。ただし、内側/外側の区別は4次元空間で見ないとわからず、4次元の認識ができない人間にとっては「あれ、どっちなんだっけ」状態です。結局見分けるためには、”ゲームオーバー”(仮想世界からの脱出か現実世界での死か)を選択するしかなく、空間をぶった切るしかないということだと思います。
空間をぶった切る、堂々巡りをぶった切るという意味を手首をぶった切るリストカットにかけているのでしょうか。
私の解釈とピアス
しばらくの間は、現実世界 ⬅︎➡︎ 仮想世界(アフリカ) だったと考えられる。途中で、仮想世界(アフリカ)から現実世界に帰ってくる代わりに 仮想世界'(東京) に移行します。
仮想世界(アフリカ) ➡︎ 仮想世界'(東京) ➡︎ 現実世界?(研究所/東京)
いつの間にか放り込まれた仮想世界'(東京)の中で以下のように展開します。
仮想世界'(東京) ⬅︎➡︎ 仮想世界(アフリカ) ➡︎ 仮想世界”(東京) ➡︎ 仮想世界'(東京)
真壁七美、姫田恒太(外報部の荷物運び)、豊浦利也(ゲームめいじん)は 仮想世界’ にのみ存在します。アパートの鍵と名刺もこの世界のみです。
金色ピアスは、元の現実世界と仮想世界’にあります。青色ピアスは仮想世界”にあります。また。この仮想世界”ではポケットに金色ピアスは存在しません。
私の解釈と携帯電話
上杉彰彦と真壁七美の電話は、本文で説明されているように現実世界/仮想世界によって理解されます。メビウスの輪で見るとわかりやすいと思います。上下がわからない状態です。
要するに仮想世界’ の中で、仮想世界'(下図の現実)⬅︎➡︎仮想世界”(下図の仮想)をK2で移行します。上杉は仮想世界’ を現実と思い込んでいたので(42章まで)、現実としました。
仮想世界”には、アパートの鍵や名刺は存在していないです。ここに上杉がいます。鍵と名刺が存在する仮想世界’には七美がいます。七美の電話中は、上杉は仮想世界’ではK2の中です。上杉の電話は仮想世界”上での出来事なので七美には繋がらないです(そもそも七美は仮想世界”にはいないと思います)。
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英語
27章の英語をラフに訳しておきます。
ことば
感想
室内でVRのゲームをして酔ったことがあります。特にジェットコースターなど移動するモノに乗るタイプのゲームは恐ろしく酔います。実世界の身体が動いていないのに、視覚から入ってくる風景は移動しているから脳がパニックを起こすらしい。これと逆の酔いは、実世界の電車や自動車の中で本を読むと体験できると思います。小説中のK2では多分、身体が移動しているという感覚も与えているのかなと。
全体的にさくさくと読めて楽しかったです。では、現実世界に戻ります。
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