【ネタバレ】『アリス殺し』(小林泰三)の感想

ミステリー/スリラー

 スナークはブージャムだった!この話では、ルイス・キャロルの『スナーク狩り』の一節を合言葉に、現実世界と不思議の国が繋がります。原作の『不思議の国のアリス』などを前もって読んでおくと細かい描写がわかって楽しめると思います。


書籍紹介

栗栖川亜理はここ最近、不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ている。ある日、ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見た後、亜理が大学に行くと、玉子という綽名の博士研究員が校舎の屋上から転落して死亡していた。グリフォンが生牡蠣を喉に詰まらせて窒息死した夢の後には、牡蠣を食べた教授が急死する。夢の世界の死と現実の死は繁がっているらしい。不思議の国で事件を調べる三月兎と帽子屋によって容疑者に名指しされたアリス。亜理は同じ夢を見ているとわかった同学年の井森とともに冤罪を晴らすため真犯人捜しに奔走するが……邪悪なメルヘンが彩る驚愕の本格ミステリ。

解説=澤村伊智

『アリス殺し』作品紹介

ネタバレ感想とか

 ポップな話と思っていたら猟奇的な話だった。以下ネタバレ。


ざっくりと

 要するに、地球上の主人公たちが夢で不思議の国に行くのではなく、不思議の国の動物たちが地球上の生き物の夢を見るという話。胡蝶の夢。ここで不思議の国での死は、それに対応する地球上の動物の死とリンクしているが、逆は成り立っていない。広山准教授は自害したが、その主であるメアリーアンは不思議の国で死なない。

 基本的に不思議の国でバレないように殺してしまえば、地球上では事故に見せかけることができるため地球上ではバレにくい。このことを利用して犯行をおこなった。

 卵型体系だというだけで篠崎教授をハンプティ・ダンプティだと思い込み、全然関係ないポスドクが殺される無慈悲さ。そして、不思議の国の生き物はあまり賢くないので、メアリーアンがシリアルキラーになることを許してしまった。メアリーアン/広山准教授はかなり聡明な印象を受けたのに、研究者としての広山准教授は終わっていた。研究倫理もなく、アカハラの教科書みたいな人でした。結局、アリスはメアリーアンより聡明だった。

 地球での出来事はすべて赤の王様の夢であり、赤の王様が目覚めることで地球が終わる。最後には悪魔、妖怪、怪獣が現れ、世界が揺らぎ、地球が終わる。そして、次の世界が始まる。


人物紹介

 現実世界にいる動物と不思議の国にいる動物の対応をまとめます。この対応関係を自分で推測しながら読んでいくのも、この本の醍醐味のひとつでした。

  • 栗栖川亜理 = アリス 眠り鼠
  • ハム美 = 眠り鼠 アリス
  • 井森健 = ビル(蜥蜴)
  • 王子玉男 = ハンプティ・ダンプティ
  • 田中李緒 = 白兎
  • 篠崎教授 = グリフォン
  • 広山衡子 = 公爵夫人 メアリーアン
  • 田畑順二 = ドードー
  • 西中島巡査 = 公爵夫人
  • 谷丸警部 = 女王
  • 中学生二人 = おかしな帽子屋、三月兎

 白兎は目が悪く匂いで動物を判断することと、メアリーアンとアリスの臭いが似ていることから話の核心はつかめると思います。そのことは度々描写されており、びっくりパーティの話や田中梨緒の勘違いなどから核心に気付けたかもしれません。

 また、第1章での合言葉「スナークはブージャムだった」を聞いていたのが、アリス、ビル、眠り鼠であることが分かれば、亜理とハム美の役割を特定できたと思います。その他、亜理がハム美と何時間も話し込む描写もありましたね。


 * ハム美が毎晩アリスとして不思議の国で生活しているのを想像すると面白いと思います。実際は、不思議の国にいるアリスがハムスターの夢を見ているのだけれども。


どのように犯行したか

 不思議の国でおこった犯行を順にまとめます。

  • ハンプティ・ダンプティ:篠山教授だと誤解した広山(メアリーアン)のミスでうっかり墜落させられる。白兎に犯行を目撃されるが、白兎はメアリーアンと臭いの似ているアリスによる犯行だと思っていた。
  • グリフォン:広山が篠崎教授を殺すために実行。メアリーアンに、牡蠣をいっぱい食べればいいよと唆されて、無理やり窒息させられる。生き残った牡蠣が証拠にあったが、ビルが食べてしまう。
  • 白兎:宅配で「くさかりき」と見せかけて架空の生き物のスナークを忍ばせておく。しかし、スナークはブージャムだった。原作『スナーク狩り』に登場するブージャムは、危険な種であり出くわすと跡形も残らず消滅してしまう。ビルは、これがアリスによる犯行かどうか疑念をもっていた。
  • ビル:メアリーアンによって飼いならされたバンダースナッチ(怪物)によって食べられる。ダイイングメッセージ「公爵夫人が犯人だということはありえない」を残す。このメッセージが消されなかった理由は、周囲に「公爵夫人=広山」と思わせている広山にとって都合の良いものだから。
  • アリス:手錠などで拘束されたまま、体が大きくなるキノコを食べさせられて死ぬ。ポケットの隠し球である眠り鼠が、すべての事情を把握しており事件解決の鍵になる。


 

ことば

 気になったことばをまとめます。

ことば
  • オッカムの剃刀:説明に不必要なものは削ろう精神。必要以上に仮定を持ち込むのは良くない精神。
  • アーヴァータール:ヒンドゥー教のアヴァターラ(Avatāra)から来たことば?要するに「アバター」。

参考:ヤングオイスターズ

 グリフォンが牡蠣をつまらせます場面があります。不思議の国のアリスをあまり知らなかったので、なかなかな描写だなぁと思っていましたが、調べてみたら原作もそれに変わらずのお話でした(ヤングオイスターズ【pixiv百科事典】)。


思い出そう、不思議の国を

 映画版のアニメや、ジョニー・デップ主演の『アリス・イン・ワンダーランド』を見て、みんなで不思議の国でも思い出しましょう。


 そろそろ宅配が届くので終わります。宅配の中身のスナークはブー…

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