【ネタバレ】小説『カラスの親指』道尾秀介

ミステリー/スリラー

 題名が気になったので読んでみた。内容紹介にもある通り、詐欺で生活する男2人の家に少女、その姉、姉彼氏が増えていき、打倒 組織 を目論む。作戦名は「アルバトロス作戦」。暴力で勝てないから、頭使って騙して、アホヅラかかせてやろうぜ大作戦である。

書籍紹介

人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年二人組。ある日、彼らの生活に一人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。各々の人生を懸け、彼らが企てた大計画とは? 息もつかせぬ驚愕の逆転劇、そして感動の結末。道尾秀介の真骨頂がここに! 最初の直木賞ノミネート作品、第62回日本推理作家協会賞受賞作品。(講談社文庫)

内容紹介/講談社BOOK倶楽部

ネタバレとか感想とか

 以下、ネタバレを含みます。

 トサカ(猫)が悲惨な目にあう場面とか、シュンとしてしまったけどネタバレで安心した。

ざっくりと

 初めから全て、入川(テツ, 河合光輝)の大計画である。

 武沢(タケ)は「借金の保証人➡︎組織の取立役➡︎詐欺師」と生きる。組織にいた頃に、娘(まひろ、やひろ)のいる母(河合瑠璃江)を自殺に追い込んでしまう。その罪悪感から組織を裏切り、ヒグチという組織の上司は捕まって、組織全体が崩壊する。しかし、娘の沙代がいる自宅を放火されて、娘を失う。以後、ヒグチの報復に怯えながら過ごす。

 テツもかつて借金があって妻を亡くしている。テツは自分の娘2人(まひろ、やひろ)と武沢の近況を探偵を使って調査し、互いに引き合わせようとする。武沢との出会いは、武沢の郵便受けに鍵屋のチラシ『Lock&Keyいるかわ』を入れ鍵屋に扮して出会う。そしてタケとテツで詐欺により生計を立てる。テツはタケの自宅でボヤ騒ぎを起こし上野に引っ越しさせる。また、自分の娘(まひろ)にはジュエリーショップのチラシを入れて、上野に向かわせる。

 まひろはチラシにつられて上野に向かう。家賃が払えず家を追い出された後、タケとテツが2人で住むアパートに住み込む。同じく姉のやひろも彼氏の石屋貫太郎とともにやってきて同じアパートに住む。まひろは、クロスワードに書かれた筆跡から、家に度々送られてくるお金がタケによるものだと知る。タケはそのことを知らず、自分がまひろの母を自殺に追い込んだことを隠し続ける。

 そのアパートでトサカという猫(テツが用意した)を家で飼うことになる。以上の5人1匹で、打倒 ヒグチの残党 を目指してアルバトロス計画を実行する。

 武沢ら vs ヒグチ(弟)らの組織

の構図になっている。アルバトロス計画はヒグチ(弟)に見破られていて、5人は捕まって事務所に連れていかれる。しかし、解放される。

 以上の話において、テツが鍵屋に扮してタケと出会うところからアルバトロス計画の終わりまで、すべてがテツの計画通りである。この計画では、ラーメン屋にあったポスターの劇団員を使って、ヒグチ(弟)など組織の役を演技してもらっている。テツはベテランの詐欺師であり、テツの運営資金は、ヒグチが出所後に経営した建設会社を騙して得ている(ラーメン屋の新聞)。

 テツと出会ってからは1個も詐欺は行われていないし、トサカも殺されていない。テツは癌で死が近いため、みんながハッピーになれるような詐欺を武沢、まひろ、やひろにかけてやったのである。

鳥の意味

 HERONは鳥のサギを意味します。物語の初めに、二人詐欺師が銀行で詐欺(=サギ)をする様子が描かれます。

 BULLFINCHは鳥のウソを意味します。この章では武沢の過去の話によって、武沢が組織に加担し、ある女性を自殺に追い込んでしまった話が語られます。入川鉄巳(テツ)の妻も同じように自殺させられたため、入川は武沢のような人間を恨んでいるはずですが、入川はそのことに触れません。一生懸命に嘘(=ウソ)をつこうとする様子が描かれます。

 CUCKOOは鳥のカッコウを意味します。カッコウの習性として「托卵」があり、自分の子供を他の種に育てさせるものがあります。つまり入川(テツ)の子供(まひろ、やひろ)を武沢と出会わせて、一緒に住むように誘導する様子(托卵)を表していると思います。

 STARLINGは鳥のムクドリを意味します。武沢が書き込んだクロスワードの答え「ムクドリ」の筆跡が、まひろら宛ての手紙に書かれた「ドリーム足立」とそっくりだったため、まひろが金の送り主が武沢であることに気づきます。

 ALBATROSSは鳥のアホウドリを意味します。アホづらかかせて組織を倒すためのアルバトロス計画です。一方で、ゴルフではイーグルよりも打数が1少なく、かっこいい鳥でもあります。

 CROWは鳥のカラスを意味します。カラスが黒いから玄人(くろうと)も意味する。入川(テツ)がベテラン詐欺師(玄人)であることを意味します。また、入川=カラスの死ぬ間際に、武沢以外が来ていないことは「カラスの死骸をめったに見ないこと」を意味します。

カラスの親指の意味

 上述の通りカラスは玄人を意味し、ベテラン詐欺師の入川=カラスと考えられます。

 親指には2つの意味があります。1つ目は「(本当の)お父さん」を意味し、まひろとやひろの親であることを意味しています。2つ目は親指が他の指全てを正面から見渡せることを意味します。親指以外の4つの指はそれぞれ武沢、貫太郎、やひろ、まひろに対応し、この4人を掌の上で転がしていたことになります。

 入川(テツ)は、初めから終わりまですべて把握し、計画通りに大騙しを成功させました。

ことば

鳥中心のことば
  • heron: サギ
  • swan: 白鳥、ぶらぶらあてもなく歩く
  • bullfinch: ウソ
  • cuckoo: カッコウ
  • starling: ムクドリ
  • by rule of thumb: 経験則
  • albatross: アホウドリ
  • crow: カラス

次作

 本作の続編として『カエルの小指』を読みたいと思います。

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