【ネタバレ】『ジェリーフィッシュは凍らない』(市川憂人)の感想、犯人の目的、真空気嚢とアルキメデスの原理

ミステリー/スリラー

 解説にある通り『そして誰もいなくなった』系ミステリーで、閉鎖空間で一人ずつ殺されていく話です(クローズドサークル)。

 探偵役として警察のマリアと九条漣が、事件を解明していきます。

 題名の「ジェリーフィッシュ」とは日本語で海月(クラゲ)を意味し、作中ではクラゲ型の飛行船になります。

ネタバレの感想

 3パートで構成されています。

  • インタールード:犯人の過去についての独白
  • 事件パート:ジェリーフィッシュ内での事件
  • 地上パート:事件に関するマリアと漣らの調査

世界観

 1983年を舞台として、パラレルワードを描いています。

 この世界では、ジェリーフィッシュなど架空の飛行船がでてきます。窒化炭素などを利用したりと、一部の科学技術に関してはかなり進んでいるように思えます。

 国々を現実世界と対応させるのであれば、

U国=アメリカ、R国=ロシア、J国=日本、M国=メキシコ、C国=カナダ、S国=スペイン

あたりでしょうか。現実世界では、1983年のときにはソ連だと思います。ちなみに、ソ連崩壊は1991年になります。

冒頭の実験ノート

 冒頭では、ウィリアム・チャップマンがジェリーフィッシュ内で調査記録をノートにまとめています。そこには搭乗員が

 エドワード・マクドウェル (派遣社員)

と書かれており、研究員のサイモン・アトウッドの名前はありません。

読者はこのウィリアムの実験ノートを参考に登場人物を把握するため、

「マリアや漣もエドワードが搭乗員であると考えている」

と読者は思い込んでしまいます。実際には、地上パートにいる人物が計画書から把握した6人に、エドワードは入っておらず、サイモンが入っています。

 その結果、エピローグまで(レベッカの誕生日である11月16日まで)、地上パートでは「エドワードが誰であるか」を突き止めることができませんでした。

誰が犯行をおこなったか

 犯人のエドワード(偽名)が、レベッカの死の復讐として犯行を行ないました。

なぜ犯行をおこなったか

 エドワード(偽名)が犯行をおこなった理由は

レベッカの死に対する復讐

です。

 レベッカは学生であるが、化学の知識についてはピカイチでジェリーフィッシュを浮かせるために必要なアイデアを持っていました(レベッカの実験ノート)。また、人が良くて誰からも好かれていました。

 エドワードは十歳の子供のときに、模型店でアルバイトをしていたレベッカと出会います。インタールードでの様子から、子供ながらにレベッカに恋をしていたようです。

 誕生日に、レベッカから実験ノートをもらい、レベッカが亡くなったニュースを知ります。レベッカの死の真相については、大学に入ってから知ります。

 そして盗聴によって、レベッカの死が他殺であり、ジェリーフィッシュ開発組がその隠蔽をしようと工作していたことを知ります。また、レベッカの研究成果を盗み、ファイファー教授らはジェリーフィッシュの第一人者となっていきます。

 このような研究員らの悪行を知ったエドワードは、復讐のためにジェリーフィッシュに忍び込み犯行を行なっていきます。

どのように犯行をおこなったか

 6人全員が他殺であったことから、1人の死体があらかじめ用意されていたと考えるのが筋でしょう。

 ここでも、サイモンのバラバラ死体をクーラーボックスに入れてジェリーフィッシュに持ち込んだとあります。

 また、どのようにして犯行後に雪山から逃げたかは、2つのジェリーフィッシュのうち、ステルス機能のついた片方で逃亡しました。

 この逃亡トリックはジェリーフィッシュが2つあると分かれば簡単ですが、地上パートで発見される計画書からは、

ジェリーフィッシュは1つしかない

かのように書かれます。そして読者も騙されます。このあたりがこの小説で一番面白いところです。

亡命組と生贄組

 まず、亡命組が仕組んだ通りジェリーフィッシュは2つ用意されています。このことは、スポンサーである空軍には知らされていません

 研究員のうち「亡命組」のネヴィル、クリス、リンダはU国から亡命しようとします。そのため、他の3人の搭乗員を「生贄組」にします。そして、生贄組のジェリーフィッシュを事故に見せかけて全焼させようとします。燃やすことによって、6人全員が死亡したと思わせるためです。

 当初の予定では、

亡命組ジェリーフィッシュは正常に移動し、生贄組ジェリーフィッシュは自動運転で雪山に墜落させて燃やす

つもりでしたが、エドワードに計画がバレているため

2つのジェリーフィッシュともに雪山に墜落

させられます。

ジェリーフィッシュが浮かぶ原理

 アルキメデスの原理によって浮かんでいます。

 身近なものだと、空気よりも軽いヘリウムなどを風船の中に入れれば浮かぶと思います。そんなイメージで。風船の体積が同じだと、中の気体が軽いほど浮かびます

 一番浮く場合は、中を真空にしてしまうことです。

 ただし真空にすると、今度は風船の外側からの気圧によって風船が押し潰されます。したがって、押しつぶされないような強度を持った風船を用意すればよいということです。

 この世界では、窒化炭素と呼ばれる硬い材料と樹脂を混ぜたもので風船を作って浮かせています。これを真空気嚢と呼んでいます。

アルキメデスの原理

 要するに浮力が発生する理由です。

 物理の成績を聞くシーンですが、マリアは逃亡用の小型ジェリーフィッシュを隠す仮説を出しました。漣は

「…押し除けられる流体など存在しません。…」

として仮説を棄却しています。このあたりは書いてある通りですが、簡単に説明をしておきます。

 まず、でっかい真空気嚢(風船)を用意します。その中は真空になっています。したがって、その中に小型のジェリーフィッシュ(中身を真空にした)を入れても浮かぶことはないです。

 わかりにくい場合は真空をヘリウムとして考えてみます。まず、ヘリウムをいれて大風船をつくります。その中にヘリウムで小風船を入れても全体として浮力は変わらないということです。

 要するに、真空の風船の中に真空の風船を入れても2倍の浮力が得られるわけではないということです。

次回作

 このシリーズは「アリス&漣シリーズ」とされています。第2弾は、『ブルーローズは眠らない』で、第3弾が『グラスバードは還らない』です。

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