吉森は、身近な人たちが記憶を消されていることを知る。そして自らも記憶を消されている感覚がある。そこで、都市伝説だと思っていた、記憶を消去する「記憶屋」について調査し始めていくというストーリーである。
映画『記憶屋』も2020年に公開されている。佐々木蔵之介の高原役は似合っていると思う。
書籍紹介
忘れたい記憶を消してくれる都市伝説の怪人、記憶屋。大学生の遼一は単なる噂だと思っていたが、ある日突然大切な人の記憶が消えてしまい、記憶屋の正体を探り始める……。切ない青春ノスタルジックホラー!
作品紹介/KADOKAWA
ネタバレ感想とか
以下にネタバレ込みの感想を書いていこうと思います。
主人公は吉森遼一で、都市伝説がどのように伝わるかを調べている。「記憶屋」については都市伝説レベルだと思っていたが、記憶を消されたと思える人を3人見つける。偶然ではないということで、「記憶屋」が実在するとして、その正体を探し始める。
吉森が、記憶を消されていると思った3人は
- 幼なじみの河合真希
- 大学の先輩の澤田杏子
- 自分である吉森遼一
人物
人物に焦点を当てて、見ていこうと思います。
澤田杏子
吉森の大学の先輩。
8時以降に外を出歩くのが怖く、飲み会などを早く帰る。遼一は杏子に惚れていたため、一緒に家まで送っていたりする。杏子の事情をしった遼一はなんとか克服させようと試行錯誤するもうまくいかず。
杏子は遼一の好意に気づいていると思います。しかし、吉森と一緒にいてもまだ恐怖は克服できない。吉森と向き合って生きていけるように、「トラウマのもと」になる記憶を消す。
自分の意志で記憶を消した杏子は、吉森のことをすっかり忘れる。吉森はこれにショックをうける。吉森の中では、
杏子の記憶から自分が消える = 杏子の世界で自分がいない
と同じだと思います。このことから、吉森は「記憶を消すこと」に対して負の感情を抱き始める。
高原智秋(弁護士)
30代の弁護士。外村篤志を事務所で雇う。
自分が病気でもう後がないが、死後に周りのひとを悲しませないために「記憶屋」を利用する。「記憶屋」については仕事ができると十分に信用している。記憶屋に頼んだ内容は、
安藤七海が自分のことを忘れること
高原は七海に好かれていたので、自分の死後に七海が追って自殺するのではないか、ということで記憶を消してもらう。
「大事な人に忘れらた」吉森遼一に向けた発言から、記憶屋について高原の価値観は以下の通り。
大事なひとが死ぬこと < 大事な人に忘れられること
死後にこの封筒を開けるようにと外村に伝え、近しい存在である外村篤志と安藤七海への感謝の手紙を封筒に入れた。
外村篤志
高村の事務所で働く。料理がうまい。
高村から信頼され、高村の死について知っている。高村が記憶屋と接触していることも知り、記憶屋が「人の記憶も消せる」と知る。記憶屋に依頼しようとしたことは、
高村に死のことを忘れさせる
である。しかし、高村に止められる。
外村は、高村の死も乗り越えられるということで記憶は消されていない。高村からの手紙を読んで泣く。
手紙の「生きてください」によって、高原の死を乗り越える。
安藤七海
高原の事務所によく行く女子高生。
高原のことばでリストカットを止めるようになり、それ以降 事務所に行くようになった。体調の悪くなる高原を見て心配する。
高原が死んだら自分も死ぬつもり
でいる。高村の手紙(差出人不明)を受け取ったが、記憶を消されているため意味を理解できない。
関谷要(カナ)
佐々操の幼なじみで、家が隣同士。
母親の男癖が悪いため、女性に好かれることに対して否定的である。友人だと思っていた操からの告白も拒否してしまう。
記憶を消した操に対して最初は驚くが、だんだんその意味を理解する。「操が自分と恋愛感情のない関係を作ろうとしている」ことに気づき、要は何もなかったかのように友達を続けている。
「仲の良い人からの記憶から消えた経験のある」ということで、吉森遼一に、ことの顛末を話す。
佐々操(ミサオ)
関谷要の幼なじみで、家が隣同士。
近所に住む要のことを好きになってしまう。要に告白するが、振られてしまう。それでも、要と一緒にいたいという思いがある。そこで、
要のことを忘れる
ことで、恋愛感情のない関係を作ろうとする。
吉森遼一
主人公。
杏子の件で「記憶屋」について調べていたが、記憶を消される。記憶を消す行為について否定的である。
「男と子どもが向かい合う」夢を見て、その子どもが真希ではないかと思う。これを
男=記憶屋; 子ども=真希
と勘違いする。しかし実際には、
男=依頼人; 子ども=真希=記憶屋
だと知る。
終盤までは「記憶屋=男」という一種の叙述トリックが用いられています。
河合真希
吉森遼一の幼なじみ、遼一のことが好き。
幼い頃に親の浮気について知ってしまい、大泣きする。そこで、記憶屋である菅原のじいさんに記憶を消してもらう。
遺伝なのかわからないが、真希自身も記憶を消すことができる。そのため、「記憶屋」としても活動する。
記憶を消すことの重みについてはわかっている。辛かったり悲しかったりする記憶を消すということは、それを乗り越える機会を奪うことだと。また、忘れされた人物のことなども。
最後、吉森遼一の中にある杏子の記憶を消そうとしたのは、
杏子のことを忘れられてもらわないと自分に好意が向かない
と考えたからだと思います。要するに嫉妬的なものでしょうか。
記憶屋の正体と特徴
50年前に流行っていた記憶屋の正体は 菅原のおじさん である。
噂されていた特徴:痩せ型、灰色コート、男性
最近、流行っている記憶屋の正体は 河合真希 である。
噂されている特徴:女性(要の記憶から)、灰色コート
記憶屋は
- 内容により人の記憶も消せる
- 記憶を食べる
- 自分の正体につながる証拠は残さない
- 1度消した記憶は元には戻らない
- 自分の記憶は消せない
緑のベンチや駅の伝言板についての噂が出始めたので、それを真希は利用して依頼人と会う手段としている。
記憶を消すということ
記憶を消すということがよいことか悪いことか考えさせる話になっています。
吉森遼一は、記憶を消すことに対して否定派です。その理由は、つらい記憶も乗り越えるべきだとする考え方になります。そしてそれが成長につながるとする。
とくに吉森は、杏子に忘れられたという経験を持つため、記憶を消すことには否定的です。
一方、記憶屋として、河合真希は肯定派です。どうしても七海のようにつらい記憶を乗り越えれない人もいるため、記憶を消すことで助けようと。
しかし、記憶を消すことでその人が本当にやり直せるかについては懐疑的である。同じことを繰り返すのではないかと。
最後のシーン
真希は
「一度だけでもいいから、あたしのことを好きになって」
と言い、遼一の記憶を消す。そうすれば、もしかしたら一度リセットすれば、遼一が自分のことを好きになってくれるのではないかと思って。
しかし、記憶が消えた直後の吉森遼一は真希に対して
妹のように思っている幼なじみ
という印象を持っているため、遼一が真希に惚れることはないと思います。かなしいけど。
次作
次作の『記憶屋Ⅱ』ですね。切ない青春ミステリー。また読みます。
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