【ネタバレ】小説『ハサミ男』(殊能将之)の感想

ミステリー/スリラー

 美少女を殺して、喉にハサミを突き刺して自分の犯行をアピールする「ハサミ男」の話。三人目のターゲットについて、個人情報や尾行によって綿密に犯行計画を立てていたが、ターゲットが何者かによって殺されていることを目撃してしまう。

 この物語では、ハサミ男自身(と警察)が真犯人を探すというストーリーになっている。

書籍紹介

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作! 【2005年公開映画「ハサミ男」原作】(講談社文庫)

『ハサミ男』書籍紹介/講談社BOOK倶楽部

感想とネタバレ

 以下、感想などをまとめますが、ネタバレを含みます。


ざっくりと

 主人公「ハサミ男」の視点で進む話は、「わたし」を主語にして語られます。そして警察の視点から進む話には「ハサミ男と疑わしい男」が徐々に追い詰められていく様子が描かれています。しかし、実際には

「ハサミ男と疑わしい男」(警察視点) ≠ 「ハサミ男」(わたし視点)

となっています。はじめに、警察パート(第1章)で描写されている第一発見者(色白の太った男性)が「ハサミ男と疑わしい人物」として物語終盤まで語られます。それと同時に、はじめに公園にはもう一人の女性おり、その女性こそが「ハサミ男」になっています。

 「わたしパート」と「警察パート」の話は交わっているようで交わっていないのです。

 一方で、犯罪心理分析官 堀之内は異常な執着心から第三の被害者を殺害し、「ハサミ男」の仕業に仕立てます。そこで物語中盤から終盤にかけて、堀之内が怪しいのではないかということが語られます。要するに、

第三の犠牲者の犯人=堀之内

であるという風に全貌が明らかになっていきます。結局、「ハサミ男」が堀之内の拳銃で自殺未遂した様子を見た磯部は、堀之内が目撃者二人を殺害しようとしているという風に思い込んでいる。

結果、「ハサミ男」の一人勝ちになっている。

なぜ事件の解決が難しいか

 作中で「ハサミ男」が誰であるか特定するのが難しい原因は、「ハサミ男」というマスコミがつけた呼称にある。この呼称から、警察や読者までもが犯人が男性であると勘違いさせられると思います。要するに、叙述トリックになっているのです。

 読者にとっては、「第三の被害者がハサミ男の犯行ではないこと」がわかっているため、真犯人を「ハサミ男」とともに探します。そして、叙述トリックによって読者は

ハサミ男 = 日高(白い太った男性 )

だと思わされます。それを刷り込まれながら、第三の犯行の真犯人が誰であるかを推理していきます。

 同時に磯部視点(警察パート)では、堀之内が怪しいということは最終段階まで知らされていないため、第三の犯行の犯人が誰であるかの情報は少なくなっています。ただし、警察側の村木らは秘密裏に堀之内についての調査を進めていることが明かされます。

現場に残された証拠品

 被害者の首のハサミと、被害者の近くの茂みに落ちいたハサミの2丁が証拠品になっています。突き刺された第一のハサミが刃先が粗いのに対し、第二のハサミは鋭利になっています。これを巡って堀之内がボロを出し始めたので、村木らが怪しいと感じ始めました。

物語の最後

 知夏(ハサミ男)が一切疑われることなく話は終わります。「医師」と会話した、刑事である磯部に惚れらていますが、「わたし」にとっては不愉快な出来事でした。この内面には「わたし」「医師」のほかに、深層にいる「子供としての人格(本物?)」が現れ、見舞いにきた実の父親と会話をしています。

 そして、最後に病室でクッキーをくれた少女に名前を尋ねます。これによって「わたし」の人格が、「ハサミ男」として再犯する可能性も示唆され、物語を締めくくります。

まとめ

 私はまんまとトリックに引っかかり、日高がハサミ男だと思っていました。綺麗に騙されたので爽快です。また、医師の話の中に挙げられた作品(豊富な引用)については、寡聞にして知らないものばかりだったので、もう少し教養を付けようと思いました。

 次は同じ著者のこれを読もう。

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