映画にもなっているホラー作品です。『リング』の貞子と同じように、「シライサン」による恐怖は感染していきます。「シライサン」の怖い話(オリジナル版)を聞くだけで呪われるため、ネットの普及により呪いの拡散は早そうですね。
そう考えると間宮冬美が、呪い話を口外したのにも意味がありそうです。
書籍紹介
親友の変死を目撃した女子大生・瑞紀の前に現れたのは、同じように弟を亡くした青年・春男だった。何かに怯え、眼球を破裂させて死んだ二人。彼らに共通していたのはある温泉旅館で怪談を聞いたことだった。
作品紹介/KADOKAWA
いくつかの考察
ネタバレ込みで思いついたことをまとめます。
誰が広めたか
簡単にまとめます。
- 重大な事件(これが話の鍵で不明)により巫女が座敷牢に入る
- 目隠村で巫女が呪い話の原作を作る
- 石森ミブが村人に読み聞かせ回る → 村崩壊
- 石森ミブは幼少期のトラウマから人名が覚えられないため、シライサンに襲われていない?
- 石森ミブが老人ホームに入った後(@湊玄温泉)、溝呂木は「原作」を知る
- 溝呂木は近く(@湊玄温泉)にすむ子供の渡辺秀明に話をする → 溝呂木死亡
- 子供の渡辺は話を日記に書きすっかり忘れる
- 渡辺は二十代後半になり、日記の話を思い出す
- 渡辺は、鈴木和人、加藤香奈、富田詠子に話す → 鈴木、加藤死亡
- 近くにいた森川俊之もその話を聞く → 森川はシライサンと出会うも生還
- 富田は名前を伏せて山村瑞紀、鈴木春夫に話すも、うっかり「シライサン」を教える → 病院で富田死亡
- 森川は間宮幸太に話す → 森川死亡
- 間宮幸太は間宮冬美に話す
- 間宮冬美は知人に話す & ネットに拡散? → 大勢死亡
- 間宮幸太が目隠村で調査 → 死亡
- 間宮真央らしき子供が生還
山村と鈴木が生きている状態で話は終わります。
シライサン
作中の終わりで、囚われていた巫女が書いたとされる「呪い話の原作」には「死来山」と書かれています。
その特徴は以下のようになっている。
- 鈴つき赤い紐を両手に貫通(目隠村における死者の証)
- 顔に痣があり、異常なほど目が大きい
- 現れると周囲が暗くなる
目隠村における山岳信仰の神、あるいはその使者あたり。
間宮幸太が死際に、目隠村の土蔵で見た巨大な山が御神体であると考えられる。それに、目を潰した供物を用意しているのが「シライサン」で、使者になるのか。
目を潰すのが供物の条件と思われるのは、巫女が石森ミブに「鳥の目を潰して」持ってくるように言ったことからもわかる。
使者は舟に乗せられ、土蔵にある三途の川を渡る。間宮幸太は、向こう(彼岸; 死の世界)からこっち側(此岸; 生の世界)にくる舟もあることに気づく。そこに乗っている小さな人影は、交通事故で亡くなった間宮真央だと考えられる。
つまり、間宮真央は死の世界から現世に生き返ろうとしている。
「シライサン」の正体ははっきりとわからない。外見の痣が特徴的であるが、溝呂木は石森ミブの容姿を「童女のよう」と触れているくらい。
間宮幸太
呪われてからは、娘の幻影をよく見る。そして、この人は御札剥がしたりしちゃう人。
また、記者としての名を轟かせようと、目隠村にある「シライサン」陣営の本拠地に乗り込む。シライサンは3日に1回しか現れないから大丈夫だと考えていたが、
死者を連れてくるのに一日、ターゲットのところへ行くのに一日
と考えている。したがって、本拠地の土蔵(死の淵)に乗り込んだため、三日ルールは適用されず、捕まり死んでしまう。
間宮冬美
旧姓は石森であり、目隠村出身と語る石森ミブのひ孫に当たる。
交通事故に遭う前のシーンで、真央のポシェットに鈴が付いていて、ちりん、ちりんと鳴る描写も少し怪しい。また、冬美は夢の中で娘の真央に「また目を覚まして、そのうち一緒に暮らせる」という。
そして、
- 死者を生き返らせるには大量の目を潰した死者が必要
- 間宮幸太が土蔵で見た、向こう側の舟にいる人影
- 親戚の子供を預かっている
などから、交通事故で亡くなった娘の真央は生き返ってきています。生き返って現れたところは、石森ミブの前に現れた赤子の場合と同じく、湊玄温泉のある町でしょう。船着き場である「湊」は、死者が舟に乗って帰ってくる場所という意味でしょう。
冬美の怪しいところは、冬美だけは不可解な現象に悩まされている描写がない。悩んでいるのは「シライサン」について人に話してしまったことだけ。
供物(シライサンによって連れて来れれる死体)によって子供が生き返るため、呪いを広めたと考えるのがいいでしょうか。ただ、きっかけは渡辺の話から始まった偶発的なものだと思われる。
シライサンの精神攻撃
対象をわざわざ弱らせているというよりは、「生から死へ連続的に」移行しているように感じた。一番怖かった攻撃は、富田詠子が病院で経験したシライサンの「ナースの声真似」だと思う。
目隠村での過去のできごと
石森ミブによる話から、神子が自分の子を生き返らせる為に供物が必要で、(おそらく恨んでいた)村人を捧げるつもりだった。そこで「強い力」によって感染型の呪い話をミブに話させた。
神子の力は、目をくりぬいた鶏などを供物と儀式で、ミブが家族から小言を言われないようにすることもできた。ミブの後ろに得体のしれないものを付けた?(おそらく一時的か限定的で、村の外でミブに怯える描写はない。)
*「目隠村」は文字通り「目を隠す」の意味だと思ったので、両眼球ない死体を集めるより、両眼球だけ集めるほうがふさわしい気がする。
土蔵の巫女
- 祈禱師の一族は巫女のことを「醜聞」と考えていた。
- 呪いの失敗と呪いの跳ね返り
- 「あたまがおかしい」として幽閉
一つの説:祈りに訪れた軍人と巫女の間に子供ができたが、一族はスキャンダルと捉えた。そして、人目につかないように幽閉し、死産させる。
この座敷牢に閉じ込めらている原因が重要な内容であり、不明な内容になる。次作あればそちらで語られるかもしれない。
他に考えられること。「あたまがおかしい」とは何か?=跳ね返り呪いの影響か、あるいは、死産による精神的な問題。この精神的な問題のため、別の人格として「石森ミブ」を作り出した?
いくつかの事実と解釈
石森ミブは、信頼できない語り手になっているかもしれない。ただし、認知症ではない。逆に溝呂木の視点は、おそらく事実が書かれている。
溝呂木視点から見た石森ミブは「童女のよう」。石森ミブ視点からみた巫女も美しい姿(ミブの話は真実か?)。
瑞紀の夢:土蔵にある牢の中に美しい女性(巫女)がいて、目の前には赤ん坊の人骨(四章7節)。夢の中で記憶があやふやだが、木の格子の内側には老女 石森ミブの面影のある女性(五章1節)。
おそらく容姿に関する記述から、
美しい巫女=石森ミブ
の可能性が高い。
祖母の字ですよ
孫娘は「呪いの原作」の筆跡が祖母 石森ミブの字だという。このことから、2つの可能性を考えた。
- 溝呂木に話したことは嘘で、巫女=石森ミブ(自覚あり)
- 巫女と石森ミブの2つの人格がある(自覚なし)
巫女=石森ミブ(自覚あり)の場合:溝呂木は、石森ミブが鈴の音に怯える様子を見ている。石森ミブ=巫女なら、鈴の音に怯えるとは思えない?
巫女=石森ミブ(自覚なし):石森ミブからみた巫女(自分から見たもう1人の自分)について溝呂木に伝えた。精神分裂なら、巫女の姿をみて「あたまがおかしい」とは思わない?
巫女がどのような過去があったかが重要になると考えられる。すなわち、目隠村での過去のできごとが明かになれば、真相は解明できるだろう。
太平洋戦争以前に何があったか、軍人たちはどうしたか、巫女は誰の子供を身籠ったのだろうか。
まとめ
巫女=石森ミブ説が濃厚だが、真相はよくわからない。いろいろな解釈も可能だと思います。
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