【ネタバレ感想】小説『シライサン』(乙一)、わたしの解釈

ホラー

 映画にもなっているホラー作品です。『リング』の貞子と同じように、「シライサン」による恐怖は感染していきます。「シライサン」の怖い話(オリジナル版)を聞くだけで呪われるため、ネットの普及により呪いの拡散は早そうですね。

 そう考えると間宮冬美が、呪い話を口外したのにも意味がありそうです。

映画『シライサン』本予告(30秒)

書籍紹介

親友の変死を目撃した女子大生・瑞紀の前に現れたのは、同じように弟を亡くした青年・春男だった。何かに怯え、眼球を破裂させて死んだ二人。彼らに共通していたのはある温泉旅館で怪談を聞いたことだった。

作品紹介/KADOKAWA

いくつかの考察

 ネタバレ込みで思いついたことをまとめます。

誰が広めたか

簡単にまとめます。

  1. 重大な事件(これが話の鍵で不明)により巫女が座敷牢に入る
  2. 目隠村で巫女が呪い話の原作を作る
  3. 石森ミブが村人に読み聞かせ回る → 村崩壊
  4. 石森ミブは幼少期のトラウマから人名が覚えられないため、シライサンに襲われていない?
  5. 石森ミブが老人ホームに入った後(@湊玄温泉)、溝呂木は「原作」を知る
  6. 溝呂木は近く(@湊玄温泉)にすむ子供の渡辺秀明に話をする → 溝呂木死亡
  7. 子供の渡辺は話を日記に書きすっかり忘れる
  8. 渡辺は二十代後半になり、日記の話を思い出す
  9. 渡辺は、鈴木和人加藤香奈富田詠子に話す → 鈴木、加藤死亡
  10. 近くにいた森川俊之もその話を聞く → 森川はシライサンと出会うも生還
  11. 富田は名前を伏せて山村瑞紀鈴木春夫に話すも、うっかり「シライサン」を教える → 病院で富田死亡
  12. 森川は間宮幸太に話す → 森川死亡
  13. 間宮幸太は間宮冬美に話す
  14. 間宮冬美は知人に話す & ネットに拡散? → 大勢死亡
  15. 間宮幸太が目隠村で調査 → 死亡
  16. 間宮真央らしき子供が生還

山村と鈴木が生きている状態で話は終わります。

シライサン

 作中の終わりで、囚われていた巫女が書いたとされる「呪い話の原作」には「死来山」と書かれています。

 その特徴は以下のようになっている。

  • 鈴つき赤い紐を両手に貫通(目隠村における死者の証)
  • 顔に痣があり、異常なほど目が大きい
  • 現れると周囲が暗くなる

 目隠村における山岳信仰の神、あるいはその使者あたり。

 間宮幸太が死際に、目隠村の土蔵で見た巨大な山が御神体であると考えられる。それに、目を潰した供物を用意しているのが「シライサン」で、使者になるのか。

 目を潰すのが供物の条件と思われるのは、巫女が石森ミブに「鳥の目を潰して」持ってくるように言ったことからもわかる。

 使者は舟に乗せられ、土蔵にある三途の川を渡る。間宮幸太は、向こう(彼岸; 死の世界)からこっち側(此岸; 生の世界)にくる舟もあることに気づく。そこに乗っている小さな人影は、交通事故で亡くなった間宮真央だと考えられる。

 つまり、間宮真央は死の世界から現世に生き返ろうとしている

 「シライサン」の正体ははっきりとわからない。外見の痣が特徴的であるが、溝呂木は石森ミブの容姿を「童女のよう」と触れているくらい。

間宮幸太

 呪われてからは、娘の幻影をよく見る。そして、この人は御札剥がしたりしちゃう人。

 また、記者としての名を轟かせようと、目隠村にある「シライサン」陣営の本拠地に乗り込む。シライサンは3日に1回しか現れないから大丈夫だと考えていたが、

死者を連れてくるのに一日、ターゲットのところへ行くのに一日

と考えている。したがって、本拠地の土蔵(死の淵)に乗り込んだため、三日ルールは適用されず、捕まり死んでしまう。

間宮冬美

 旧姓は石森であり、目隠村出身と語る石森ミブのひ孫に当たる。

 交通事故に遭う前のシーンで、真央のポシェットに鈴が付いていて、ちりん、ちりんと鳴る描写も少し怪しい。また、冬美は夢の中で娘の真央に「また目を覚まして、そのうち一緒に暮らせる」という。

 そして、

  • 死者を生き返らせるには大量の目を潰した死者が必要
  • 間宮幸太が土蔵で見た、向こう側の舟にいる人影
  • 親戚の子供を預かっている

などから、交通事故で亡くなった娘の真央は生き返ってきています。生き返って現れたところは、石森ミブの前に現れた赤子の場合と同じく、湊玄温泉のある町でしょう。船着き場である「湊」は、死者が舟に乗って帰ってくる場所という意味でしょう。

 冬美の怪しいところは、冬美だけは不可解な現象に悩まされている描写がない。悩んでいるのは「シライサン」について人に話してしまったことだけ。

 供物(シライサンによって連れて来れれる死体)によって子供が生き返るため、呪いを広めたと考えるのがいいでしょうか。ただ、きっかけは渡辺の話から始まった偶発的なものだと思われる。

シライサンの精神攻撃

 対象をわざわざ弱らせているというよりは、「生から死へ連続的に」移行しているように感じた。一番怖かった攻撃は、富田詠子が病院で経験したシライサンの「ナースの声真似」だと思う。

目隠村での過去のできごと

 石森ミブによる話から、神子が自分の子を生き返らせる為に供物が必要で、(おそらく恨んでいた)村人を捧げるつもりだった。そこで「強い力」によって感染型の呪い話をミブに話させた。

 神子の力は、目をくりぬいた鶏などを供物と儀式で、ミブが家族から小言を言われないようにすることもできた。ミブの後ろに得体のしれないものを付けた?(おそらく一時的か限定的で、村の外でミブに怯える描写はない。)

 *「目隠村」は文字通り「目を隠す」の意味だと思ったので、両眼球ない死体を集めるより、両眼球だけ集めるほうがふさわしい気がする。

土蔵の巫女

  • 祈禱師の一族は巫女のことを「醜聞」と考えていた。
  • 呪いの失敗と呪いの跳ね返り
  • 「あたまがおかしい」として幽閉

 一つの説:祈りに訪れた軍人と巫女の間に子供ができたが、一族はスキャンダルと捉えた。そして、人目につかないように幽閉し、死産させる。

 この座敷牢に閉じ込めらている原因が重要な内容であり、不明な内容になる。次作あればそちらで語られるかもしれない。

 他に考えられること。「あたまがおかしい」とは何か?=跳ね返り呪いの影響か、あるいは、死産による精神的な問題。この精神的な問題のため、別の人格として「石森ミブ」を作り出した?

いくつかの事実と解釈

 石森ミブは、信頼できない語り手になっているかもしれない。ただし、認知症ではない。逆に溝呂木の視点は、おそらく事実が書かれている。

 溝呂木視点から見た石森ミブは「童女のよう」。石森ミブ視点からみた巫女も美しい姿(ミブの話は真実か?)。

 瑞紀の夢:土蔵にある牢の中に美しい女性(巫女)がいて、目の前には赤ん坊の人骨(四章7節)。夢の中で記憶があやふやだが、木の格子の内側には老女 石森ミブの面影のある女性(五章1節)。

おそらく容姿に関する記述から、

 美しい巫女=石森ミブ

の可能性が高い。

祖母の字ですよ

 孫娘は「呪いの原作」の筆跡が祖母 石森ミブの字だという。このことから、2つの可能性を考えた。

  • 溝呂木に話したことは嘘で、巫女=石森ミブ(自覚あり)
  • 巫女と石森ミブの2つの人格がある(自覚なし)

 巫女=石森ミブ(自覚あり)の場合:溝呂木は、石森ミブが鈴の音に怯える様子を見ている。石森ミブ=巫女なら、鈴の音に怯えるとは思えない?

 巫女=石森ミブ(自覚なし):石森ミブからみた巫女(自分から見たもう1人の自分)について溝呂木に伝えた。精神分裂なら、巫女の姿をみて「あたまがおかしい」とは思わない?

 巫女がどのような過去があったかが重要になると考えられる。すなわち、目隠村での過去のできごとが明かになれば、真相は解明できるだろう。

 太平洋戦争以前に何があったか、軍人たちはどうしたか、巫女は誰の子供を身籠ったのだろうか。

まとめ

 巫女=石森ミブ説が濃厚だが、真相はよくわからない。いろいろな解釈も可能だと思います。

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