【ネタバレ】小説『やめるときも、すこやかなるときも』(窪美澄)

小説/文学

 題名の「やめるときも、すこやかなるときも」は、結婚式の誓いで聞くことばです。この小説では、2人の訳あり男女が結婚に向かうかまでのストーリーを描きます。

 須藤壱晴は家具職人で過去に訳あり。本橋桜子は家庭内に訳あり。この2人の複雑な心情が描写されています。ドラマ予告はこちら。

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ネタバレ感想とか

 以下、ざっくりとまとめます。

章ごとの展開(長文)

 須藤壱晴本橋桜子の視点でそれぞれ描写されます。私の読書メモを整えました。

  1. 須藤壱晴パート:朝目覚めると「僕」は知らない女のひと(桜子)が横にことに気づく。その日の午後、家具職人として仕事場で働いているときに、個展のパンフレットの件で桜子が訪れ、昨日のことを話す。結婚する気のない須藤は「椅子も結婚と同じで気に入らなければ替えればよい。」と軽く言う。そして会話の途中で、声が出なくなる「記念日反応」が表れる。
  2. 本橋桜子パート:32歳の櫻子は、自分より早く結婚した妹の桃子に嫉妬する。自分の結婚については、3年前に付き合っていた広瀬が一番結婚に近かったが、重いと思われて二股される。昨日も酔った須藤に連れられて家に行くも何もされず。さらに、偶然仕事で会った須藤に覚えられていないことにショックを受ける。同級生と話で須藤と結婚したいと思うと話したが、須藤の「気に入らなければ替えれば良い」発言に「結婚ってそんな軽いものか」と。その後の須藤の「記念日反応」を見て、須藤が病めるときも支えていきたいと感じる。
  3. 須藤壱晴:須藤の「記念日反応」に慌てる桜子を落ち着かせる。ここで、声が出ないことの回顧。反応の1年目は大学の集まりで急に声が出なくなって病院へ行き、心療内科をすすめられるが行かず。2年目は、友達の妙子に無理やり心療内科へ連れて行かれる。医者には「記念日反応」と言われ、トラウマに向き合わないと治らないと言われる。このころから女癖が悪くなっていく。家具職人の師匠である哲先生には「結婚しろ」と言われる。須藤には支えが必要だと。そこで本橋のことを思い出し微笑む。
  4. 本橋桜子:中学生のときは父さんの会社が順調で幸せだったが、倒産してしまい父親が荒れる。桜子の荒れた家庭を知った上で、自分のことを好きになってもらいたいと思う。また、トラウマも暴きたいような残酷な感情もあるが、須藤のことをもっと知りたい。ここから桜子は壱晴にアプローチしていく。家具の模様替えと言う理由で家(実家)に呼ぶ約束をし、桜子の部屋を見た須藤は「桜子のための椅子を作る」と言う。早く帰ってきた酔っ払いの桜子の父親と会い、須藤は(桜子と)「付き合うつもりでいます」という。
  5. 須藤壱晴:17歳の高校生のころも同じことを言ったと、真織の父親のことを思い出す。好きだとはっきり言えないが、壱晴は自分に近づく桜子で「真織との思い出を上書き」しようとする。また声が出せるように、椅子を作れるように、そのために桜子にそばにいて欲しいと思うようになる。高校生の頃、島根に引っ越したときの回想。友達の堀内の家が経営するホテルで、バイトしている真織と出会う。昔の彼女である真織と桜子をなにかと比べてしまう。桜子に本気かどうか詰問され、本気であることを伝える。しかし、桜子を知りたいということは自分の秘密(トラウマ)も打ち明かすということ、そんなことができるのか、と。
  6. 桜子:自分が結婚したら母さんは父さんと2人で住もうとしている。桜子の懸念は、母さんが父さんに暴力を振るわれ続けるのではないかということ。この先も、自分が結婚しても、この家庭環境を抱えていかなければならないという不安を抱く。壱晴はデータをとり顧客のニーズに合わせる椅子づくりをする。そのため、壱晴は桜子のことをもっと知りたいと思っている。ここで、仕事モードをオフにして名前で呼び合う。そこで、1月3日に壱晴の母の家に来ないかと誘われる。そして壱晴の実家で、壱春と真織が手を繋いでいる写真を見つけてしまう。
  7. 壱晴:正月以降、桜子が距離をとっているように思う。工房にやってきた妙子に、既婚者相手に妊娠したと伝えられる。壱晴の近況を聞く妙子に、トラウマのことを桜子に話すように言われる。家具職人の師匠である哲さんが倒れる。桜子に会い、島根での真織との出来事を話す(「記念日反応」の原因)。
  8. 桜子:壱晴の過去の話を聞いて、真織に嫉妬する。壱晴が、家庭環境の似た真織と自分を重ねているのではないかと思う。そして、眠ってしまった壱晴は寝言で「真織」の名前を口にする。そのことを壱晴に問い詰め、壱晴は「松江に二人で行き、区切りをつけよう」と提案する。高校生の頃の同級生である堀内(ホテル経営者)に会い、真織の墓の場所を教えてもらう。真織の事故現場なども見て、2人で墓参りをする。一通り見て回った後、「壱晴との最初で最後の旅行になる」だろう、と一人歩いていく。
  9. 壱晴/桜子:一人歩いていく桜子を止めない。島根に来たら真織の件に区切りがつくだろうと思っていたが、逆に鮮明に蘇り始めて真織のことを思い始める。そして、松江に桜子を連れてきたことを後悔する。哲さんが退院するが、まだ体調は悪い。柳葉君によると、哲さんは昔 結婚しようと思っていたが、相手の親に反対され結婚できなかったことがある。そのような事情があり独身のままであると。また、哲さんが壱晴のことを心配していることも話す。パンフレットの写真撮影には桜子の椅子は間に合わなかった。しかし、哲さんに、絶対に桜子の椅子を作るように言われる。/桜子は松江から帰ってきてから一月間、壱晴とは仕事のメールしかしていない。パンフレット写真撮影時に「桜子のための椅子」が完成していないことに落胆する。撮影中はどうやって壱晴のことを忘れようかと考える。壱晴との今後について悩み、母の前でそのことを打ち明け泣いてしまう。
  10. 壱晴/桜子:椅子ができるまでは桜子と連絡しないつもりでいた。哲さんの容体を見に来て、酸素マスク越しに桜子の椅子について聞かれる。哲さんは、自分のようになるな、桜子の椅子を作れと言う。完成間近の椅子を哲さんに見せると、哲さんは「いいじゃないか」と言い眠りにつく。桜子に電話し、哲さんが亡くなったことと椅子を見に来て欲しいことを伝える。/壱晴の電話を受け、昨日とは違う自分を感じる。哲さんの葬儀のあと、椅子に座らせてもらう。そこで、「結婚してください」と頼む。壱晴が桜子の家に結婚報告に行く。桜子の父が暴れ出すが、母が数発ビンタする。後日、ギャラリーで展示された椅子「sakurako」は高い評判を受ける。また、真織と名乗る女の子も現れる。そして次の12月がやってくる。壱晴が真織に別れを告げ、桜子と同居する自宅へ戻り話を終える。

なぜ記念日反応がでるか?

 「記念日反応」は壱晴の高校時代の島根での経験によります。

 同級生である堀内の家が経営するホテルで、アルバイトをしている真織に出会います。真織は家計が苦しくバイトしており、また「家を出たい」ということで一生懸命勉強もしている。

 壱晴は、ある日、真織が乗る自転車のパンクを修理する。自転車屋にはブレーキも状態が良くなく新品を買った方がよいと勧められるが、真織のために自転車を買うのは自己満足になるため買わなかった。

 その後も真織に近づき、高3の夏に花火大会に誘い、そこを母が写真を撮る。帰り際に、酔っぱらった真織の父に会い、「お付き合いするつもりです」というが、父暴れる。

 真織と一生ともにしようとする壱晴は、一緒に東京の大学に行こうと誘う。ある日、風邪をひいて、バイトの見送りができないとき、真織が目の前で交通事故に遭い亡くなる(ブレーキの故障)。

 これが「記念日反応」の原因となる。そして、壱晴はこのトラウマを紛らわすために、女癖が悪くなっていく。

桜子の家庭内の問題

 桜子が中学生のときは幸せであったが、父の会社が倒産したことにより貧しくなってしまった。父親は酒に溺れ、桜子はバイトしながら大学の学費を稼ぐことになる。

 家が貧しく、父が飲んだくれになっている家庭環境は、真織のときと似ている。壱晴はそのような事情からも、桜子と真織を重ねるようになる

須藤壱晴と本橋桜子

 須藤壱晴と本橋桜子ともに32歳であり、親から結婚の圧力がかかっている。心情については、桜子のほうが振れ幅は大きいと感じます。

 須藤壱晴は、真織の事件後に毎年「記念日反応」が表れるため、それを紛らわそうと女癖が悪くなっていった。しかし、家具職人としての気持ちは真っ直ぐで、本気である。

 桜子に対しては、仕事場で「記念日反応」の世話をしてもらってから、そばにいて欲しいと考え始める。桜子の実家で、桜子の父親に出会ったあたりから、本気で付き合っていきたいと思っている。

 本橋桜子は、壱晴のことをはじめは軽い男で「本気ではない」と疑っていた。だが、桜子のための椅子作りなど、壱晴の本気を見て考え直す。

 しかし、壱晴の実家で真織の写真を見て、壱晴から真織の話を聞くと、真織に嫉妬してしまっている自分に気づく。さらに、島根旅行では壱晴が真織との思い出を断ち切れていないことに気づき、壱晴の元を去ろうとする。そのまま壱晴とは仕事のみの関係が続き、自分の椅子がパンフレット撮影時にできていないことに落胆する。

 壱晴の電話で、椅子を見に来て欲しいと言われたときに、気持ちが変わる。そして、椅子に座り壱晴に結婚を申し込む。

最後のシーン

 最後は、壱晴が桜子の待つ自宅へ戻るシーンになります。このとき、12月になっているため、例年なら「記念日反応」が出てもよい時期になります。

 しかし、「ただいま、桜子」は確かに、音として発せられていることから、「記念日反応」を克服できたと考えられます。

その他

花言葉

花言葉
  • ジャスミン:愛想の良い、優美、官能的
  • :不老、不死、固い友情

島根観光

 2年くらい前に穴道湖と美術館に行ったので、なんとなく情景はイメージして読めました。以下、簡単にまとめます。

島根(松江)観光
  • 穴道湖:シジミで有名。夕日がすごく綺麗。
  • 花火大会=松江水郷祭。湖の上に花火が反射して綺麗。
  • 島根県立美術館:穴道湖の近くにある。夕日が綺麗。
  • レインクライン=ぐるっと松江レインクライン(観光周遊バス)、松江観光に便利。

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